Origin/OriginProユーザ事例集
第15回 気象研究所 全球大気海洋研究部 様

気象研究所 全球大気海洋研究部  第三研究室 木名瀬 様

気象研究所 全球大気海洋研究部 第三研究室 木名瀬 様

エアロゾルを観測して
気候変動や健康被害の原因を解析

気象研究所の全球大気海洋研究部様では、気象・気候変動解明のための地球システムモデリングに関する研究を行っています。同研究部・第三研究室の木名瀬様には、気候変動に関連するエアロゾルの研究の中でOriginProをご活用いただいております。その様子を詳しく伺わせていただきました。

■ 高度なフィッティング機能が研究に役立っています

- OriginProを知ったきっかけを教えてください

学生(茨城大学)のころ、東大の先端科学技術研究センターに行った時にOriginProを使っていて、そこでの出会いがきっかけですね。グラフ作成や解析が出来てスゴいソフトだなと思っていたら、自分の大学にもあったので、早速使い始めました。最初覚えるのに時間はかかりましたが、使いこなせるようになってきました。お陰で今ではフィットや相関係数の出力など様々な用途で使っています。もし、今Excelでやれと言われても、もうできません(笑)。

- 研究内容について教えてください

第三研究室ではエアロゾルの空間分布や粒子状態の観測や領域・全球大気輸送モデルシミュレーションを通じ、気候変動解明や健康影響評価に通じる研究を進めています。その中でも私は濃度や粒径分布、化学成分などの直接観測に加え、電子顕微鏡を駆使した個別粒子解析を行い、実環境でのエアロゾルの詳細研究を行っています。

例えばBlack carbon(BC)と呼ばれるエアロゾルがあり、私の重要な研究対象の一つとなっています。主に不完全燃焼により生じる「煤」粒子なのですが、光学的に黒いため、太陽放射を吸収し温暖化に寄与することが知られています。BCは温暖化に強く寄与する一方で比較的短寿命なため、排出規制などの効果が短期のうちに気候変動対策に反映できるShort lived climate pollutant(SLCP)の一つとして注目されています。

地球温暖化の原因として代表的に語られるCO2は排出量を抑えても効果が出るには長い年月が必要になりますが、BCは寿命が短いため抑制すればすぐに効果が期待できます。その他、散乱性のエアロゾルは地表に入射する太陽エネルギーを抑制したり(日傘効果)、雲の生成、大気循環にも影響を及ぼすことが分かってきています。そのため、大気中のエアロゾルは気候変動の解明と人類がなすべき対策を模索するうえで重要な研究対象となっています。

- 具体的にどのような場面でOriginProを利用されてますか?

前述のようにBCは短寿命であることから、その空間分布も地点で大きく異なります。BCの気候影響を理解するためには、様々な場所、特に観測事例が少ない場所での実観測が重要となります。そこで私は昭和基地の越冬観測中に、まだ表面積雪中BCの濃度や粒径分布の観測例がない、東南極域の現地の雪を実際に採取・分析を行いました。

南極はBCの排出源から遠く離れており、人為的な汚染が届きにくいのですが、それでも非常に低濃度ではあるものの積雪中にBCは存在していました。その粒径分布は北極や日本の雪の場合とは大きく異なって二山分布を示し、より小さいことが分かりました。これにより、私は世界で初めて東南極域表面積雪中のBC濃度と粒径分布を実観測から明らかにすることに成功しました。

下図のように、横軸が対数軸のグラフに対してフィッティングできるOriginProの機能は非常に便利です。そのうえ、二つの対数正規分布の重ね合わせで実測を近似できるため、今回発見した積雪中BCの粒径分布を定量的に理解するうえでは必要不可欠でした。

昭和基地で撮影されたオーロラ

昭和基地で撮影されたオーロラ

南極の雪のサイズ分布グラフに対数正規分布フィットを行った結果

南極の雪のサイズ分布グラフに対数正規分布フィットを行った結果

その他にも南極には「吐いた息が白くならない」という面白い現象がありまして、実はここにもエアロゾルが関係しているんですね。大気中にエアロゾルがあると、そこを中心に水蒸気が集まって雲や霧粒が発生します。しかし通常、南極の空気にはエアロゾルがほとんどないんです。核になるエアロゾルが極端に少ないので水蒸気が霧粒に成長できず、そのため吐いた息が白くならない、ということなのです。

エアロゾルを核として雲や霧粒が生成する過程では、凝結核として水粒を形成する過程が多いのですが、一方で氷晶核として氷粒を形成する過程もあります。

通常、水は-38℃程度まで氷になりませんが、氷晶核能を持つ粒子(INP)が存在することで、より高い温度で氷を形成するようになります。氷粒の成長は水粒の成長に比べて圧倒的に早く、あっという間に粒が大きく重たくなります。そのため、極端な気象現象(霰被害や集中豪雨など)の原因ともなるといわれています。気候変動を考える上で、INPの影響によりどのように雲分布が変わり、気候に影響を及ぼすのかといったことを解明するのも、大事なテーマの一つです。

INPとして見つかったエアロゾル粒子の例とサイズ毎に捕集したエアロゾルの凍結温度の時系列グラフ

INPとして見つかったエアロゾル粒子の例とサイズ毎に捕集したエアロゾルの凍結温度の時系列グラフ

また、気象研究所では1957年より大気中から沈着する環境放射能の月間濃度を観測し続けています。
放射性物質は放射性崩壊に加え、環境中での移行などにより指数関数的になくなるので、OriginProの指数関数フィッティングが将来予測を行う際に非常に役立ちました。
この機能を用いた解析から、つくば拠点では環境放射能の濃度が42年で福島原発事故以前のレベルまで戻ると推定でき、同事故で放出された放射性物質の直接放出、その後の大気中での輸送、沈着後に再度大気中へと舞い上がる再飛散プロセスの様子が解明できました。

他にも、地球温暖化の要因であるだけでなく、エアロゾルは呼吸を通して生体に取り込まれ、様々な健康被害を引き起こします。特に金属成分は細胞に対して酸化ストレスを与え、呼吸器障害をはじめとしたさまざまな健康被害を引き起こします。
金属粒子はそのサイズ、形態、混合状態や化学状態によって人体への侵入経路や影響力が異なるため、どういった金属成分がどの程度存在し、その存在形態を明らかにすることは重要な研究となります。

右図は、最新の観測手法(GED-ICP-MSシステム)により、PM2.5中の金属成分をリアルタイムで観測した結果と、そこでとらえたイベント時の実際のエアロゾル写真です。
Na,Mgを海塩、Alを鉱物、Feを人為起源粒子のトレーサーと考えて、イベントを分けてみたところ(a)、見事にその期間中の支配的エアロゾルが分かれていました(b)。
特に人為起源イベント時の鉄を主体とする微粒子を見てみると(c)、様々な形態(上からナノ粒子の凝集体、膜に分布した溶存体、ナノ粒子が無数に分散した形態)で存在することが分かりました。
さらに、これらの元素とは異なる非常に存在量が微量の元素(数ng m-3以下)についてもイベントと存在形態を同時に観測することに成功しました。これらの結果は、人為活動(様々な燃焼や、精錬製鉄、インフラ活動)により排出される金属微粒子の実情を明確に示すことができました。

フィッティング機能を用いて測定された環境放射能の減衰を予測

フィッティング機能を用いて測定された環境放射能の減衰を予測

PM2.5中の金属成分グラフと、実際のエアロゾルの写真

PM2.5中の金属成分グラフと、実際のエアロゾルの写真

- 本日はたくさんのお話を聞かせていただきありがとうございました。これからもOriginProが皆様の研究のお役に立てるよう、研鑽を積んでまいりたいと思います。

Origin機能紹介

カーブフィット

OriginProのカーブフィット機能は多くのOriginユーザにご利用いただいている機能です。ワークシート/グラフのどちらのデータに対しても、線形、多項式、非線形のフィットを実行でき、豊富な組込関数(関数陽関数、陰関数)を使用可能です。
また、様々な繰り返し操作をサポートする機能が利用できるのもOriginの魅力の一つです。

関連ソフトウェアご紹介

画像解析ソフトウェア MIPAR

画像解析ソフトウェアMIPARなら、微粒子の構造解析・測定など高度な画像解析も簡単なマウス操作で可能です。OriginProと合わせて導入いただいている例も増えております。

フィルターについた異物を分類した例

気象研究所 全球大気海洋研究部 第三研究室様のWebページ

気象研究所 全球大気海洋研究部 第三研究室様のWebページはこちらからご覧ください。

page_top_icon