仙台青葉学院大学の齋藤佑樹先生は、作業療法士として長年臨床現場に携わり、多数の論文や著書を出版されています。MAXQDAのユーザでもある先生に、作業療法士の役割や質的研究との関わりについてお話しを伺いました。
齋藤佑樹 先生
仙台青葉学院大学 リハビリテーション学部 リハビリテーション学科
作業療法学専攻 副学科長 教授
作業療法学を専門とし、「12人のクライエントが教えてくれた作業療法をするうえで大切なこと※1」など多数の著書がある。
※1 齋藤 佑樹 (著)
12人のクライエントが教えてくれる作業療法をするうえで大切なこと, 三輪書店, 2019.
続 12人のクライエントが教えてくれる作業療法をするうえで大切なこと, 三輪書店, 2021.
「臨床と研究はすぐ近くにあるものという感覚を常に持っていますし、持っていたいと思っています」
「『自分の人生は捨てたもんじゃないな』と、みんなが思える社会がいい」
ーーまずは、作業療法士であり大学の教員でもある先生のお仕事について教えてください。
20代から15年くらいはずっと病院1本で働いてきて、それから教育・研究の世界に入りました。今は大学の教員がメインなので、基本的にほぼ毎日大学にいます。そして、不定期に訪問看護ステーションなどを運営しているエシカル郡山の学術顧問や、施設等機関のアドバイザーをやっております。
ーー大変幅広くご活躍されていますね。作業療法士というと、体を壊した方のサポートを病院でしていらっしゃるイメージがあります。病院以外にも、作業療法士が必要とされる場面が沢山あるんですね。
そうですね、実は今、病院とは少し距離があるんです。今関わっている施設では、生きづらさを抱えている方を対象に、自分の感情とどう向き合うかとか、どういうふうに自分に折り合いをつけて生きていくかとか、そういったところへの働きかけをしています。フィジカルな部分のサポート、例えば年をとったりあるいは病気になったりなどでうまく役割がこなせなくなった場合に、リハビリをどうしていくかといったサポートも行います。組織の動き方のマネジメントをすることもあります。
ーー病院と領域は違えども、その根本にあるものは全然変わらないように聞こえます。
変わらないと思います。
ーーところで、リハビリテーションの研究ですとクライエントをどうケアするか? というところに焦点が当たりがちかと思うのですが、ケアする側(多くの場合は家族)は誰がケアするのだろう? という疑問が湧いてきます。
なるほどですね。それはすごく的を射ている意見です。作業療法の世界では、よく「作業バランス」という言葉を使います。人間って好きなことだけやって生きていけるわけではなくて、義務的なことがあったり、好きなことがあったり、生活リズムを作ってくれるようなことがあったりといった、色々なことが個人個人の望ましいバランスで散りばめられていて、それで1日というものができているじゃないですか。ですから、「娘さんが家にいて、この患者さんの面倒を見てくれる。よかった、よかった」ではなくて、クライエントの退院後に娘さんの生活(作業バランス)はどう変わるのだろうかということも考えるわけですね。退院した後のクライエントを見てくれる人たちの生活がどう変わるのかを事前に確認して、共倒れになったりとか、誰かだけがすごく負荷を抱える状況にはなったりしないように調整をしますね。それはすごく大事にします。とても大事な視点ですよね。みんながみんな「自分は世界で一番幸せだ」なんて思って生きる必要はないと思うんですけど、「自分の人生は捨てたもんじゃないな」くらいには、みんなが思える社会がいいと思っていて。そうなった時に、やっぱり誰かの生活のために他の誰かが犠牲になるべきではないと思いますし。ですから、作業療法士は対象者だけでなく対象者を取り巻く環境についても色々なアプローチをするんですけど、近くにいる人というのは対象者にとっては環境の一つなんですね。そう考えると、周りにいる人も調整するべき環境としてアプローチする対象者なんです。
次のページ:臨床現場と質的研究
「クライエントの内的な世界をイメージしながら意思決定をするーそれは質的研究にも通ずるものがあると思います」