第1回 知れば知るほど利用がどんどん加速します
東京大学社会科学研究所 田中隆一教授
専門は主に労働経済学・教育経済学
東京大学社会科学研究所 附属社会調査・データアーカイブ研究センターでは例年、夏と春に計量分析セミナーが開催されています。合計5日間で行われる夏のセミナーでは本年度も「計量経済学の第一歩:Stataによる回帰分析」が行われました。講師を務めた田中先生にStataの魅力についてお話いただきました。
"初めてStataを使用したのは米国です"
— 先生が統計パッケージを使い始めたきっかけは
本格的に使い始めたのは、米国の大学に在学しているときです。一からマトリックス計算を行うGAUSSや、与えられたデータをどんどん分析するStataといった統計パッケージが講義で指定されて、どちらかというと課題という形でした。
— 大学でみっちり学んだという感じですね
使ってみると深みがあり、だんだんと面白くなり、いろいろと知りたいと思うようになりました。Stataのコマンドが英語をベースにしており、直観的に操作できたのも影響したと思います。
— Stataのバージョンいくつぐらいから使われていたのですか
私が初めて使ったのはStata 6だったと思います。現在はPDFになっていますが、当時は印刷マニュアルが冊子A、B、C、Dというふうにありました。また、ヘルプも充実しており、分からないことがどちらからでも調べられるようになっていました。マニュアルはコマンドの用法のほかに、理論の説明も充実していて、例えばヘックマンの2ステップ推定でも、こういう理由でこういう分布を仮定して、計算をこう行うという説明が具体的に書かれており、分かる人には分かります。逆に言えば、あれを読めたらけっこう力になるのではないでしょうか。
"まずは使ってもらうという姿勢が随所に見られます"
— 教科書としての参考文献を掲載していたり、場合によってはメソッドのよい要約が書いてあったりしますよね
Exampleも充実していて、ユーザーにできるだけ使ってもらおうという意気込みが大いに感じられるソフトウエアです。使うと動作の軽さを実感できたりもするのですが、まずは使ってもらうという姿勢が随所に見られます。ただ、マニュアルが日本語でないということにハードルを感じている人も多いかもしれません。そのまま日本語にすれば良いというものでもないかもしれませんが、日本語のマニュアルで敷居はだいぶ下がると思います。
— 日本語マニュアルは欠かせないと認識しております。田中先生から見てStataはどの分野で主に使われているとお感じになりますか。
たとえばミクロ実証の分野の研究者にはStataを使っている人が圧倒的に多いです。どのコマンドを使ったかでどういう分析を行ったかの共通理解が持てます。計算上の間違いの可能性も限定されて、研究者間で議論しやすい環境でもあります。
"実際に指令を送ってみる、返ってきた結果を考えてみる、ということを繰り返すのが良い方法です"
— 計量経済学と一口で言っても実際は幅広いと思いますが、どの部分にStataを使うと良いと考えますか。
私も実証分析者として、理論を使う側として使っています。複雑な計算はコンピュータが素早くできるので、人の計算能力自体にはさほど意味がありません。計算はコンピュータがやる代わりに、人間はどういう指令を出すのかを考える必要があります。指令を出して、返ってきた結果を解釈できなければなりません。そのためには、実際に指令を送ってみる、返ってきた結果を考えてみる、ということを繰り返すのが良い方法です。間違った指令を送ると、間違ったものが返ってきます。そういう意味で、Stataは作業のしやすい、敷居が低いソフトであると思います。
— Stataを実際に使ってみて結果を解釈するということの繰り返しがポイントということですね。
間違いありません。Stataを電卓のように使うこともできますが、電卓よりも遥かにいろいろなことができます。どういう使い方をするかは人間が考えなければなりません。アイディアがあればどんどん試せますし、またStatalist*やウェブで探すこともできます。そうしたことで、Stataの利用はどんどん加速すると思いますね。
*Stataに関する質問や回答をユーザーが自由に投稿できる米国の掲示板。著名な統計家や開発元StataCorp.のエンジニアも参加し、幅広い議論が活発になされている。
— 手元に置いておきたい本として、オススメがあればお教えください。
計量経済学の講義で学生に勧めているのが『データ分析の力 因果関係に迫る思考法』(伊藤 公一朗著、光文社新書)です。それから『「原因と結果」の経済学 -データから真実を見抜く思考法-』(中室牧子、津川友介著)もおすすめです。
田中隆一教授の著書
『計量経済学の第一歩 -実証分析のススメ-』
(有斐閣ストゥディア、2015)
確率・統計の基本から丁寧に解説し、初心者でも読み進めることができるのが本書の特徴です。まずは回帰分析を重点的に把握し、操作変数法、パネル・データ分析などの応用手法も直観的に理解します。練習問題で一つ一つ理解を確認し、手を動かしながら学べます。
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— 本日はご多忙中にもかかわらず、貴重なお話をお聞かせ頂きありがとうございました。