不均一な差分の差分モデル(HDID)

平均処置効果が時間とコホートにわたって異なる場合、新しい hdidregress および xthdidregress コマンドを使用して、 処置を受けた対象者に対する異なる平均処置効果(ATETs)を推定できます。 hdidregress は繰り返しクロスセクショナルデータに、xthdidregress はパネルデータに使用します。 4つの推定方法(回帰調整や逆確率重み付けなど)から選択できます。 各コホートのATETsの時間的な変化を表示するには estat atetplot を使用します。 ATETsをコホート、時間などで集計するには estat aggregation を使用します。 その他にも推定後コマンドが用意されています。

処置効果は、処置が特定の結果に与える因果効果を測定するものです。 新しい薬、手術、トレーニングプログラム、広告キャンペーンなどの処置が、 血圧、機動性、雇用、販売などの結果に影響を与えることを想定しています。 注目すべきは、ATET(処置を受けた対象者に対する異質平均処置効果)を推定することです。
標準的な差分の差分モデル(Difference-in-Differences、DID)は、 既存の didregress および xtdidregress コマンドで実装されていますが、 これは時間を通じてすべてのグループに共通するATETを推定します。 ただし、グループが異なる時点で治療を受ける場合、一定のATETに関する仮定が崩れる可能性があります。 新しいコマンドは、ATETの異質性を考慮し、コホートごとおよび時間ごとのATETの推定値を提供する推定方法を導入しています。

操作例

学区単位の「Healthy Habits」というプログラムが、学区内の生徒の体重指数(BMI)を減少させるかどうかに関心があります。 「Healthy Habits」プログラムに関する架空のデータを使用します。 このプログラムは運動時間を増やし、果物や野菜の摂取を増やすことを取り入れています。 データは学区単位であり、各学校がこのプログラムに参加しているか(hhabit)、学区内の生徒のBMI(bmi)に関する情報が 含まれています。2013年から2021年までの40の学区における11歳から14歳の生徒のサンプルがあります。
アウトカムモデルでは、母親の教育水準(medu)が子供の健康習慣を予測する良い指標であると考えています。 また、スポーツの参加(sports)がBMIに影響を与えると仮定しています。 最後に、この年齢での男女の行動の違いや体型の違いを考慮するために、生徒の性別を考慮しています。
処置モデルでは、「Healthy Habits」を示す要素として、学区内の公園の数(parksd)を使用しています。 公園が多い学区は、都市計画において運動スペースを重視している可能性が高いという仮説があります。 そのため、これらの学区は「Healthy Habits」プログラムに好意的である可能性があります。
私たちは aipw (逆確率重み付け法)を使用して、アウトカムと処置の両方をモデル化しています。 aipw はダブルロバスト性を持っており、アウトカムモデルまたは処置モデルのどちらかが正しく指定されていれば、 一貫性のある推定値を得ることができます。

.hdidregress aipw (bmi medu i.girl i.sports) (hhabit parksd), group(schools) time(year)

1つ目の括弧にてアウトカムモデルを、2つ目の括弧にて処置モデルを指定します。 また、group(schools) オプションを用いて、処置が学校単位で行われ、 学校をクラスタリング変数として認識するようにしました。 最後に、time() オプションで時間変数 year を指定しました。
コマンドの下にある注釈によれば、カテゴリカル変数 _did_cohort が コホート情報を持つように生成されたことが示されています。 同じコホートの単位は同時に処置を始めます。データには2015年、2017年、2019年の3つのコホートがあり、 また11,355の観測値が処置を受けていないことがわかります。 時間変数 year は2013年から2021年までの範囲の値を取ります。
推定テーブルでは、各コホートごとに各年のATETが報告されています。 例えば、2015年のコホートに属する地区の2016年におけるATETの推定値が–2.5である場合、 これは2016年においてHealthy Habitsプログラムが平均してBMIを2.5減少させることを示しており、 その地区が参加していない状況と比較したものです。他の推定値も同様に解釈できます。
全てのATETの推定値を見ても傾向が分かりにくい場合、 estat atetplot を用いて 各コホートのATETの時間的なプロファイルを視覚的に確認できます。 sci オプションを指定することで、ある確率水準で真のATETの値を含む信頼区間を表示します。

.estat atetplot, sci

モデルの適合後、 estat aggregation を使用して、コホート、時間、および処置への露出ごとに ATETをまとめることができます。 これにより、ATETのさまざまな側面が簡潔にまとめられます。 たとえば、 estat aggregation コマンドを使用して、各コホートのATETを時間別にまとめたり、 graph オプションを指定して、表形式の出力に加えてまとめのグラフを作成することもできます。

.estat aggregation, cohort graph

時間ごとにATETをまとめたい時は、estat aggregation コマンドに time オプションを指定します。

.estat aggregation, time graph

最後に、処置の暴露の長さに応じてATETをまとめたい、dynamicオプションを指定します。

.estat aggregation, dynamic graph

参考

 さらに詳しい内容につきましては、下記のマニュアルをご覧ください。

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