Origin/OriginProユーザ事例集
第1回「風の流れを読み、深刻な大気汚染の解消を目指す!」

国立環境研究所 大気環境研究領域  主任研究員 上原 清 様

国立環境研究所 大気環境研究領域
主任研究員 上原 清 様

研究分野:環境汚染、大気汚染
Originの用途:論文や発表資料用のグラフや図の作成
論文:

  • 通風を考慮した沿道高濃度対策の検討、大気環境学会誌41(2) 2006年3月
  • 沿道大気汚染の可視化、可視化情報学会誌Vol.26 No.102 2006年7月
  • 沿道建物列の隙間がストリートキャニオン内濃度に及ぼす影響に関する風洞実験、日本建築学会環境系論文集、第610号、2006年12月

上原さんの研究分野は大気汚染。近年行った研究には、「川崎市池上新町の交差点の大気汚染対策」という身近な問題もあり、私たちの生活にも深くかかわっています。その上原さんが研究成果をまとめるときにいつもご利用いただいているのがOriginです。もう10年もOriginを使っているという上原さんに、研究の内容やOriginの利用方法をうかがいました。

■ 日本一ひどい大気汚染を軽減する研究

環境問題について社会の関心が高まり、さまざまな対策がとられるようになった結果、以前のように大規模な公害が発生することは少なくなりました。しかし、環境汚染の問題がなくなることはなく、例えば交通量が多い道路の周辺などでは空気の汚染問題は依然として深刻です。
上原様は、市街地における風の流れや大気汚染物質の拡散を研究することにより、道路近傍の局所大気汚染の対策を目指しています。今回詳しく語っていただいたのは、近年研究されている川崎市池上新町の交差点の大気汚染についてです。

上原様:「ここは1990年代半ば頃、日本でいちばん沿道大気汚染がひどかった場所で、僕たちの前にもさまざまな対策が取られてきました。例えば土壌浄化。バクテリアがいる湿った土の中に空気を通して浄化するものです。また、歩道に設置した光触媒を利用した舗装材料や、高架道路の下に取り付けたフェンスにツタを這わせて植物浄化する対策も行われました。」

しかし、上原さんは言います。

上原様:「土壌浄化では浄化施設に空気がやってくるまでに汚染物質の濃度がすでに100倍とか1000倍に薄まってしまっているので、集めて浄化しても効果が薄いのです。」

また、光触媒による浄化や植物浄化についても、

上原様:「効果がないわけではありませんが、1日何万台も交通量があるうちのトラック数台分程度しか効果がなかったり、フェンスを設置するとむしろ風通を悪くしてその影響が出るなど、そう簡単ではありませんでした。」

空気の流れを表現するベクトル図1

汚染物質の濃度分布や風の流れを表現する図を作成するために、最近ではベクトル図や等高線図をよく利用しているそうです。

空気の流れを表現するベクトル図2

中央にあるのが高架道路。空気の流れがベクトル図(黄色い矢印)で表されています。
ベクトル図の部分はOriginで作成されたものです。

■ 空気や汚染物質の流れをOriginで表現

そこで上原さんが提示したのは、風の流れを活用する大気汚染軽減策。風通しを悪くしていたフェンスを外したり、地上の交通を高架道路に誘導したり、トラックの排気ガスを上に向けて排出するなどです。

上原様:「煙突と同じことです。汚染物質の排気量は変わらなくても、その最大濃度を抑えることができます。もちろん、根本的な解決策は交通量を減らすことですが、こういうやり方だってあるんです。」

トラックの排気管の位置により排気される汚染物質の濃度の分布が変わることを表わした図

トラックの排気管の位置により、排気される汚染物質の濃度の分布が変わります。

上原さんの所属している国立環境研究所には、国際的にみても優れた風洞実験施設があります。その風洞で、市街地の地形を忠実に再現した縮小模型を用いて風の流れを再現し、汚染物質がどのように拡散していくか測定するなど、さまざまな実験が行われています。
そうして得られたデータをもとに、汚染対策の有効性が判断されるのです。この実験の結果をわかりやすく表現する手段として、Origin 7.5Jが活用されています。

上原様:「図によって何を伝えたいか、そのためにはどう作図すればいいか、いつも苦労するところです。良い図があれば、言葉は少なくてすみます。Originはこうした図を描くときに、例えば線の種類が豊富であるなど、さまざまな点で融通が利きます。」

Originには、複雑なグラフや美しいグラフを簡単に作成できる、回帰分析やピーク解析などのデータ分析にも利用できる、独自のマクロ言語やC言語による強力なカスタマイズ機能で機能を拡張できるなど、さまざまな特徴がありますが、表現力が充実していることがOriginを選び続ける理由になっているようです。

■ 「ライトストーンのサポートには助かります」

「もう使い始めてから10年ぐらいになるかな」というほどOriginについては大ベテランでもある上原さんといえども、

上原様:「もったいないなあと思うのは、Originでいろんなことができるのに私がそれを知らないということです。時間があれば、いろいろとやってみるのですがなかなか…」

と、豊富な機能をすべて把握することは大変なのだそうです。
Originで図を作成することは、あくまでも研究に付随することですし、ほかのソフトの知識も必要になるのですから、無理もありません。
そんな上原さんにとっていまや欠かせない存在になっているのが、ライトストーンのテクニカルサポートです。

上原様:「テクニカルサポートには非常に感謝しているんですよ。こんなことはできるのかなと思って問い合わせてみると、たいがい担当の方にすぐに教えてもらえます。普通はこんなスムーズに教えてくれないんじゃないかと思って。」

ライトストーンのOriginをご購入いただいた方なら、Origin専任の技術スタッフによるサポートが無償でご利用いただけます。これからもテクニカルサポートをどんどん活用してください。

- 今回のユーザ訪問には、上述のサポート担当も同行して、上原さんからOriginの使い方についての質問もお受けしました。「イメージファイルを読み込んでグラフと重ね合わせることはできますか?」「Originにここまで求めるのは酷かと思いますが、ワークシートでソートができるといいのですが」など、どれもOriginで実行可能です。
Originの活用法については、ライトストーンのWebサイトでも公開中です。今後も、役立つ情報を充実させていく予定です。ご期待ください。

Originで作図したグラフ1 Originで作図したグラフ2

図だけではなく、このようなグラフの作成にもOriginをご利用いただいています。

■ ユーザ訪問ギャラリー

Origin ユーザ訪問ギャラリー 1

奥にある街の模型は、手前の写真の地域を実物の1/100スケールで再現したものです。精巧にできた模型に驚かされました。

Origin ユーザ訪問ギャラリー 2

このような器具を使って測定を行います。一度に測定できるポイントが少なかったときは、実験が大変だったそうです。

Origin ユーザ訪問ギャラリー 3

水平面で見た汚染物質の濃度分布です。
高架道路下のフェンスの付近で濃度が高くなっていることがわかります。

Origin ユーザ訪問ギャラリー 4

左の図と同じ場所について、鉛直断面の濃度分布です。このような図は、Originだけでなく花子などほかのソフトと連携させて作成しているそうです。

Origin ユーザ訪問ギャラリー 5

レーザーで気体の流れを測定する実験を見せていただきました。
肉眼では何も見えないのに、レーザーを照射すると、このようにハッキリとわかります。

Origin ユーザ訪問ギャラリー 6

実験の記録はパソコン上で見られます。左に見えるのがデータを記録するハードディスク。データ量があまりに大きいため、20台以上もありました。

Origin ユーザ訪問ギャラリー 7

実験に使われる風洞施設の図。建物に風洞があるというより、風洞に合わせて建物があるというほど、とても巨大な設備です。

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