非線形ARDLモデルを推定する

EViews 13では、自己回帰分布ラグ(ARDL)モデルの推定機能が強化され、説明変数が基準値から正または負の影響に変化するような、複雑な関係を考慮した非線形ARDLモデルをサポートしました。従来のモデルでは長期的な共和分関係は対称性のある線形接続であることを想定していますが、非線形ARDLモデルでは短期および長期の非線形性を説明変数の正/負のpartial sum decompositionとしてモデル化します。

このページでは、簡単な分析例を元にNARDLモデルの使用方法をご紹介いたします。これは、開発元ブログEViews Econometric Analysis Insight Blogの投稿を元にしています。より詳細な解説は、下記をご覧ください。

データ

データの準備

  • まず、サンプルのワークファイルをダウンロードします

    ダウンロード

  • 使用するデータはボスニア・ヘルツェゴビナの経済成長と観光にについて調査したもので、月次の5系列で構成されます

  • ワークファイルのTOURISM_MONTHLYページには、次の5つの月次系列が含まれます。
    • GDP: 国内総生産
    • FTA: 外国人観光客数
    • DTA: 国内観光客数
    • FTS: 外国人観光客の滞在日数
    • DTS: 国内観光客の滞在日数
  • 国内外での観光客をグラフで表現すると次のようになります。
    データ
    データ

単位根検定

  • ARDL推定では $ I(2) $ 過程の変数を扱うことが出来ませんが、$ I(1) $ 過程と $ I(0) $ 過程の混在は許容できます
  • ここでは、5変数の次数を確認するため、Groupオブジェクトを作成し、単位根検定で次数を確認します

操作方法

  1. 5つのSeriesオブジェクト、GDP、FTA、DTA、FTS、DTSを選択し、右クリック > Open > as Groupと操作し、オブジェクトを作成します。
    グループオブジェクト
  2. GroupオブジェクトのメニューでView/Unit Root Tests/Cross-Sectionally Independentと操作し、Test typeIndividual root - Im, Pesaran, Shinに設定し、Include in test equationIndividual intercept and trendを選択し、定数項とトレンドありのIPS検定をまずレベルで実行します。
    単位根検定の設定
  3. IPS検定では、p値が0に近く、帰無仮説を棄却できれば変数は $ I(0) $ 過程に従うと言えます。レベルでの検定結果では、DTSとGDPについては帰無仮説を棄却できません。
    単位根検定の結果
  4. 単位根検定のダイアログボックスを再度開き、Test for unit root in1st differenceを選択し、1階差を取って再度検定すると、すべての変数において帰無仮説を棄却できます。したがって、DTSとGDPが1次で和分されることがわかります。
    単位根検定の結果

推定/対称性検定

  • 従属変数をGDP、説明変数をDTA, DTS, FTA, FTSとして非線形ARDLモデルを推定します

ここでは、従属変数をGDP、説明変数をDTA, DTS, FTA, FTSとして非線形ARDLモデルを想定します。これを条件付き誤差修正フォームで表示すると下記のようになります。

オプション設定

このモデルは、$ NARDL(p,q_1,q_2,q_3,q_4) $ と表記することができ、従属変数GDPは $ p $ オーダーの自己相関、非対称な分布ラグ変数のDTA, FTA, DTS, FTSはそれぞれ $ q_1,q_2,q_3,q_4 $ オーダーのラグを持ちます。上記では、赤字が共和分関係(レベルまたは長期)、黒字が調整(差分または短期)、緑字が確定成分(トレンドおよび季節性)となります。正負の上付き文字はそれぞれ長期・短期の正負の変動部分の部分和分解を表します。$ \alpha_{0}, \alpha_{1} $ はそれぞれ定数項と線形トレンドです。 また、 $ \delta_{i} $ は季節性の係数です。


NARDLモデルの推定と検定

  1. 次のように操作して、NARDLモデルを推定します。
    1. Quick/Estimation Equation...と操作し、MethodドロップダウンメニューにARDL - Auto-regressive Distributed Lag Models (including NARDL)を選択します。
    2. Linear dynamic specificationに@LOG(GDP)と入力します。
    3. Long and short-run asymmetryに@LOG(DTA) @LOG(FTA) DTS FTSと入力します。
    4. Fixed regressorsに@EXPAND(@MONTH, @DROPLAST)を入力します。
    5. Trend specificationにConstantを設定します。
    6. Max lags.ドロップダウンメニューで3と設定し、OKをクリックします。
      オプション設定
  2. 次のような結果が得られます。推定結果のヘッダには自動選択された自己相関とラグの次数、$ (2, 1, 3, 1, 0) $が表示され、$ LOG(GDP) $は2次のラグ、$ LOG(DTA)^+ $と$ LOG(DTA)^- $は1次のラグ、$ LOG(FTA)^+, LOG(FTA)^- $は3次ラグ、$ DTS^+, DTS^- $は1次のラグ、$ FTS^+, FTS^- $はラグなしとなっています。モデル選択のサマリはView/Model Selection Summary/Criteria Graphで候補となった各モデルのAICが確認できます。
    オプション設定

    オプション設定
  3. モデルに投入した説明変数の対称性を検定するため、View/ARDL Diagnostics/Symmetry Testと操作し非対称性の仮定を確認します。@LOG(FTA)をすべての有意水準で、とFTSを5%で帰無仮説を棄却し、長期関係において非対称であることがわかる。ジョイント検定では、@LOG(FTA)について帰無仮説が棄却されます。また、FTSはラグが0であり、検定の対象になりません。
    オプション設定

バウンドテスト/共和分検定

  • バウンドテストを実行し、変数の共和分関係を確認します

  1. 上記の対称性検定の結果から非対称とした説明変数を整理し、モデルを次のように変更し、再度推定を行います。
    オプション設定
    オプション設定
  2. View/ARDL Diagnostics/Bound Testと操作し、バウンドテストを実行し、変数の共和分関係を確認します。上が検定統計量、下が臨界値。F値10.68は各有意水準で $ I(1) $ の臨界値を大きく上回っているので、帰無仮説を強く棄却します。t値-8.28も $ I(1) $ の臨界値を下回り、すべての変数が $ I(1) $ 過程の共和分関係にないという帰無仮説が棄却されます。

    オプション設定
  3. 次に、View/ARDL Diagnostics/Cointegration Relationと操作し、誤差修正項を確認します。 $ K $ 個の分布ラグを持つNARDLモデルにおける誤差修正項は、次のように表されます。 \begin{equation} CE = ln(GDP)_{t-1} - \sum^k _{r=1} \beta_r x_{r, t-1} \notag \end{equation} スプールオブジェクトの1番目は誤差修正式、2番目の表は各分布ラグ変数の長期関係の係数を示しています。
    オプション設定
  4. 誤差修正回帰を上記の長期関係の係数に置き換えて表示するには、View/ARDL Diagnostics/Error Correction Resultsと操作します。
    オプション設定

動学乗数

  • 累積的動学乗数で、説明変数の被説明変数に対する貢献度を確認します

(N)ARDLモデルでは、従属変数との動学的な因果関係を動学乗数で示すことが出来ます。動学乗数は分布ラグ変数の正のショックに対する応答曲線として導き出されます。累積動学乗数(cumulative dynamic multiplier)は、共和分(長期)状態に収束するように進化するときの調整パターン(短期変動)を追跡できます。それにより、非対称リグレッサへの負正のショックに続く調整パターンの変動を調査し、CDMがそれぞれの長期(共和分)状態に向かって進化する、非対称な経路を定量化することもできます。NARDLモデルのCDMでは、ノンパラメトリックブートストラップにより信頼区間を計算します。信頼区間のオプションは非線形モデルでのみ使用可です。


操作方法

  1. 推定したモデルのCDMと、999回の反復計算によるブートストラップ信頼区間の描画には、まずView/ARDL Diagnostics/Dynamic Multiplier Graph...と選択します。Horizonを50に変更し、Dynamic multiplierを選択し、OKをクリックして、CDMグラフを作成します。
    破線が誤差修正パラメータで示された値で、CDMはこれに収束します。@LOG(DTA)とDTSは対称な変数なので、信頼区間は描かれません。@LOG(DTA)とFTSは非対称なので、有意水準5%での信頼区間を伴っています。
  2. 次に、shockを選択して、再度グラフを作成します。

まとめ

  • これまでの結果やグラフから係数の意味を解釈します

  • バウンドテストの結果と誤差修正回帰におけるCOINTEQの係数が有意なので、観光客を表す変数と経済成長は共和分関係にあることがわかります。また、一部の変数には長期関係がないことがわかります。
  • 動学乗数グラフからどの変数が経済成長に貢献しているかがわかります。Figure 1.とFigure 5.からDTAにおける1%の正の変動はおよそ25か月間GDP成長を0.04%増加させると言えます。同様に、Figure 2.とFigure 6.から国内観光客の滞在日数の正の変動はGDPを0.10%増加させます。
  • 一方、Figure 3.とFigure 7.によると、外国人観光客の到着数が1%増加すると、およそ25か月でGDPが0.17%増加することを示していますが、Figure 7.では外国人観光客到着数が1%減少した場合、GDPが25か月で再び0.12%減少すると言えます。
  • 最後に、Figure 7.とFigure 8.から、外国人観光客の滞在日数の増加がGDPを2年間0.02%押し上げることがわかります。さらに、Figure 8.からは、外国人観光客の滞在日数の負方向への1単位の変動が25か月でGDPを0.01%増加させることがわかります。
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