差分の差分モデルを推定する

EViews 13では、差分の差分(DiD)推定をサポートしました。これは個体に行われた処置の平均的なインパクトを推定する, 因果推論におけるポピュラーな方法です。
DiDは通常、処置効果が個体間・時間を通じて一定であることを仮定しますが、個体毎に処置効果が異なることが疑われる場合、EViewsは処置効果の分解やトレンド検定をサポートします。このページでは、差分の差分モデルの推定について、Goodman-Bacon (2021), Callaway and Sant’Anna (2021)および Brusyak,Jarael,and Spiess (2021)による, 一般的な 2 方向の固定効果(TWFE)を持つ手法を利用したDiDモデルの推定を紹介します。このページは、EViews 13 ユーザーズガイドIIを参考にしています。

データ

差分の差分モデルとは

  • 差分の差分推定は, 処置を受けた個体と受けなかった個体の, 処置の前後におけるアウトカム変数の差を比較することで, 処置や政策の効果を分析するものです。

  • 差分の差分(DiD)推定は個体に行われた処置の平均的なインパクトを推定する, 因果推論におけるポピュラーな方法です。処置が行われた日付が単一Dので, いくつかの個体が処置を受けたとします。その他の個体は一切に処置を受けることはありません。処置を受けた個体はグループTに属しているとし, 処置を受けない個体はグループNTに属しているとします。個体が処置を受けたか否かのデータに加え, すべての個体に関して処置が行われた前後の, アウトカム変数Yに関する時系列データが存在します。このような場合のATETを視覚的に表すと次となります。
    グループオブジェクト
  • ATET の計算は OLS 回帰を利用することが可能です Yi,g,t=αg+γt+δDg,t+ϵi,g,t
  • 添え字gは処置群(g=1)を制御群(g=0)を示し, Dg,tは処置群が実際に処置を受けた時1を取ります。この式ではATETはδの値に等しくなります。

差分の差分モデルの推定

  • NEWMINに対するEMPTOTの単純な差分推定を実行することで、Card and Kruegerの論文の結果を再現できます。

操作方法

  1. まず、サンプルのワークファイルcardkrueger.wf1をダウンロードします。サンプルファイルはC:\Program Files\EViews 13\Example Files\EV13 Manual Data\Chapter 55 - Difference-in-Difference Estimationにインストールされています。
    Card and Kruegerの研究には差分推定が含まれていますが、期間は1992年2月/3月と1992年11月/12月の2つだけです。これら2つの期間を第1波と第2波と呼びます。これら2つの期間の間に、ニュージャージー州は州の最低賃金を4.25ドルから5.05ドルに引き上げました。隣のペンシルベニア州は同期間、最低賃金を4.25ドルに維持した。ワークファイル内のデータには、ニュージャージー州の331軒とペンシルバニア州の79軒の計410軒のファストフードレストランが含まれています。雇用データを含む3つのシリーズがあります。ワークファイルのTOURISM_MONTHLYページには、次の5つの月次系列が含まれます。
    • EMPFT: 各店舗のフルタイムの従業員数
    • EMPTOT: 総従業員数
    • EMPTOTC: 閉店した店舗の総従業員数
    • HRSOPEN: 各店舗の1日あたりの営業時間数
    • NEWMIN: 店舗が最低賃金引き上げの対象であるかを示す二値変数
  2. Equation specificationフィールドに「EMPTOT C」を入力し、Treatment variableフィールドに処置変数「NEWMIN」を入力し、Sampleフィールドに「1 2」を入力します。「OK」をクリックして推定します。
    グループオブジェクト
  3. 最低賃金引き上げが雇用に与える影響の試算は2.75です。これは、ニュージャージー州の最低賃金の引き上げが実際に雇用の増加につながったことを示しています。推定値の標準誤差とt統計量のp値には、クロスセクショナル方向にクラスタロバストな標準誤差が使用されます。期間が2つしかないため、トレンドの推定値を計算できないため、パラレルトレンド検定の検定統計量とp値は表の下部に表示されないことに注意してください。
    単位根検定の設定
  4. Equation specification編集フィールドに共変量として「HRSOPEN」と入力するだけで、店舗の営業時間数を共変量として含めることができます。拡張モデルの推定結果から、この共変量を式に含めることが重要であるを評価できます。[OK] をクリックします。 結果は次のようになります。
    単位根検定の結果
  5. 共変量HRSOPEN (出力の下部に示されている)を含めることは、最低賃金引き上げの効果の推定(元の 2.75 と比較して 2.84)に大きな影響を与えていないことがわかります。しかし、決定係数や対数尤度は上昇しており、結果の有意性は大幅に高まっています。
    単位根検定の結果

モデルの推定と処置効果の分解

  • 2番目の例として、まず、無過失離婚改革の導入が女性の自殺率に及ぼす影響を分析したStevenson and Wolfers (2006)を再現します。
  • Goodman-Bacon Decompositionは処置群の個々のペアごとの処置効果に注目することにより, 複数タイミングの TWFE モデルの計算における並行トレンドバイアスの存在を探します。

Stevenson and Wolfers (2006)

  1. 例えば、共変量の無いDiDモデルの2方向固定効果モデルが次のように表される時、 yit=γi+γt+DitδDD+ϵit δDDがDiDモデル全体における処置効果です。Goodman-Bacon (2021)によれば、これはすべての2x2コホートのDiD係数の加重合計として表すことができます。 δ^kU2×2=kUωkUδ^kU2×2+kUl>k[ωklkδ^kl2×2,k+ωkllδ^kl2×2,l] δ^kU2×2は処置kおよび制御Uのコホートにおける2x2のDiDの処置効果の係数です。δ^kl2×2,k は処置kおよび制御lのコホートにおける2x2のDiDの処置効果の係数です。加重ωは次のように計算されます。 ωkU=(sk+sU)2skU(1skU)D¯k(1D¯k)V^Dωklk=[(sk+sl)(1D¯l)]2skl(1skl)D¯kD¯l1D¯l1D¯k1D¯lV^Dωkll=[(sk+sl)D¯k]2skl(1skl)D¯lD¯kD¯kD¯lD¯kV^D sji1(ti=j)/Nはコホートjのシェア、sabsa/(sa+sb)はコホートaのコホートbに対する相対サイズ、D¯t1(tj)/Tはコホートjごとの処置を受けた時間比率です。V^Dはグループと固定効果を差し引いた処置インジケータの標本分散です。さらに、加重ωkUωkU+kUl>k[ωklk+ωkll]=1となります。
  2. まず、次のコマンドを実行してサンプルファイルをダウンロードします。
    wfopen http://pped.org/bacon_example.dta
    このファイルには、女性の自殺率を記録したASMRSと、POSTにおける女性の自殺死亡率に関するデータが含まれており、観測が無過失離婚の環境下で行われる場合は1、無過失離婚が許可されない場合は0を取る二値変数です。横断面方向の変数はSTATE、時間方向はYEARで定義されます。従属変数は、1964年から1996年までの米国の州の年間自殺率です。次のように操作してモデルを推定します。
  3. 無過失離婚改革が女性の自殺死亡率に及ぼす影響を判断するには、複数のタイミングで単純な差分推定を実行できます。「Quick/Estimate Equation」をクリックし、「Method」ドロップダウンを「DiD – Difference-in-Difference」に変更します。このメソッドは、作業ファイルがパネルとして構造化されている場合にのみ使用できることに注意してください。結果変数として「ASMRS」を入力し、その後に処置ダミー「POST」、およびサンプルのペア「1964 1996」を入力しOKをクリックし推定結果を表示させます。無過失離婚制度の改革が女性の自殺死亡率に及ぼす影響の推定値は-3.08です。
    オプション設定

    オプション設定
  4. 求められたATETのGoodman-Bacon decompositionを行います。View > Differerence-inDifference Diagnostics > Goodman-Bacon Decompositionと操作します。EViewsは、出力が3つのセクションに分割されたスプールを開きます。処置時点の各ペアの2x2の個別係数と重みをすべて表示する個別コンポーネントの中央セクションは、デフォルトでは閉じられています。これらの個々の結果は、+ をクリックすると表示できます。
    オプション設定
  5. 1969年に離婚改革を導入した標本と1970年に離婚改革を導入した標本を比較した係数は3.09であることがわかります。
    これらの個々の年のペア比較の加重平均は、グループにまとめられ、最初のセクションに表示されます。Later vs. Earlierのグループ以外では、負の係数があることがわかります。この比較グループはパラレルトレンド仮定に違反する可能性があるため、大きな重みを持つ偏った正の係数が全体のTWFE係数を報告値の-3.08まで上方に偏らせた可能性があります。
    全体の推定係数を上回る多数のLater vs. Earlierグループが存在することがわかり、このグループが全体の推定値に上向きのバイアスをかけている可能性があることを再度示しています。
    オプション設定

Callaway and Sant’Anna (2021)

  • 3番目の例として、Callaway and Sant’Anna (2021)で使用されたデータを調査します。
  • TWFE推定量ではなく、Callaway and Sant’Anna推定量による処置効果を推定し、両者を比較します。

  1. Callaway and Sant’Anna (2020)による研究は, 適切な比較ペアリングを使用して差分モデルの加重平均を使用することにより, TWFE 推定量ではなく, 複数の処置期間を持つ DiD モデルの新しい推定量を導出します。彼らの推定法は, 処置からの時間が長くなるにつれて変化する処置効果に対して堅牢であるため, CS 推定量は, TWFE 推定量の信頼性を判断するための診断比較として役立ちます。
  2. Card and Krueger (1994_)と同様に、Callaway and Sant’Annaは最低賃金が雇用に及ぼす影響を研究していますが、今回は10代の雇用に焦点を当てています。データセットには、2003年から2007年までの郡レベルの10代の雇用データが含まれています。この期間中、連邦最低賃金は時給5.15ドルで一定のままでした。しかしながら、一部の州は、この期間中に州内の最低賃金を、連邦レベルを超えて引き上げた。そのような州内の郡が処置群になります(処置期間は異なります)。最低賃金を変更しなかった州内の郡は対照群に属します。
    これらのデータは、ワークファイルCallawaySantanna.wf1で提供されます。ファイルは、C:\Program Files\EViews 13\Example Files\EV13 Manual Data\Chapter 55 - Difference-in-Difference Estimationにあります。系列TREATEDは、その期間内に郡が最低賃金引き上げの対象となったかどうかを示すバイナリ変数、系列LEMPには、その期間におけるその郡の雇用の対数値が含まれ、系列LPOPには、人口の対数値が含まれます
  3. 最低賃金が雇用に及ぼす影響のTWFE推定は、Quick/Estimation specificationをクリックし、MethodドロップダウンをDiD - Difference-in-Differenceに変更することで実行できます。従属変数としてLEMPを入力し、その後に処置変数TREATED、標本期間を2003 2007と入力します。
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  4. OKをクリックし推定します。

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  5. Callaway-Sant'Anna推定値を表示するには、View/Difference-in-Difference Diagnostics/CS Group-Time Effects...をクリックして、Callaway-Sant'Annaダイアログを表示します。
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  6. 追加のリグレッサであるLPOPを追加します。郡の人口は分析対象の期間を通じて一定であるため(人口データは10年ごとの国勢調査から取得されています)、これをTWFE 推定の説明変数として含めることはできません。ただし、CS推定量で使用するはできます。
    オプション設定
  7. 出力結果の上部には、処置効果の全体的な推定値-0.042が表示されます。
    このセクションの下には、各日付の組み合わせの個々の係数と、処置期間(Group)、観察期間(Date)、処置後の期間(Duration)ごとの係数の集計が表示されます。
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参考文献

  • このページで参照している文献一覧です。
  • Callaway, P. and H. C. Sant’Anna, 2021. “Difference-in-Differences with multiple time periods,” Journal of Econometrics, 225(2), 200–230.
  • Card, D. and A. Krueger, 1994. “Minimum Wages and Employment: A Case Study of the Fast-Food Industry in New Jersey and Pennsylvania,” American Economic Review, 84(4), 772–93.
  • Goodman-Bacon, A, 2021. “Difference-In-Differences With Variation In Treatment Timing,” Journal of Econometrics, 225(2), 254–277.
  • Stevenson, B. and J. Wolfers, 2006. “Bargaining in the Shadow of the Law: Divorce Laws and Family Distress.” The Quarterly Journal of Economics, 121(1), 267–288.
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