Boosted Hodorick-Prescottフィルタ

Hodrick-Prescott フィルタは、系列の長期トレンド成分の滑らかな推定値を得るために広く使用されている平滑化手法です。この手法は、戦後の米国の景気循環を分析するために Hodrick and Prescott によってワーキングペーパーで初めて提案されました。EViews 14 では、Phillips and Shi (2020) によって提案された反復 (ブースト) HP フィルタのサポートにより、既存のルーチンが強化されています。


Hodrick-Prescottフィルタとは?

  1. 技術的には、Hodrick-Prescott (HP)フィルタは両側線形フィルタで、原系列$y$、スムージングした系列を$s$とすると、sに関するyの分散を最小化する$s$を求めますが、この時、sの2階の階差に関する罰則を用意しています。$s$を最小化するHPフィルタは次のようになります。 \begin{eqnarray} \sum_{t=1}^{T} (y_{t}-s_{t})^{2} + \lambda \sum_{t=2}^{T-1} ((s_{t+1}-s_{t})-(s_{t}-s_{t-1}))^{2} \end{eqnarray} $s$系列は一般的にトレンドと呼ばれます。原系列の循環成分$c$は$c_{t}=y_{t}-s_{t}$として計算されます。
    罰則パラメータ$\lambda$は$s$の平滑化の度合いを制御します。$\lambda$が大きくなるほど、系列は平滑化されます。$\lambda=\infty$とした時、$s$は線形トレンドに近づきます。逆に、小さいほど原系列に近くなります。
  2. Phillips and Shi (2020)は、HPフィルタを反復させて「よりスマートな平滑化デバイス」を作成することを提案しました。このboosted HPフィルタは、循環系列$c$を受け取り、フィルタをもう一度実行して、新しい平滑化された循環系列を生成します。フィルタリングプロセスが繰り返され、各反復でさらに平滑化された系列が生成されます。この反復手順の利点は、最終的な平滑化された系列が$\lambda$の選択にあまり依存しないことです。
    Phillips and Shiは、設定された反復回数の後にプロセスを繰り返すか、情報基準を使用して最適な反復回数を決定することを推奨しています。

HPフィルタダイアログ

  1. Hodrick-Prescottフィルタを使って系列を平滑化にする場合、Proc/Hodrick-Prescott Filter...と操作します。
    データ
    コマンドで呼び出すには次を実行します。
    hpf シリーズ名
  2. 最初に平滑化したデータの名前を入力します。EViewsはデフォルト名を設定していますが、これは自由に変更できます。次に平滑化パラメータ$\lambda$の値を整数で入力します。このパラメータを決める際にはRavan and Uhlig (2002)の周波数-振幅法(1年に含まれる観測期間数を4で割り、データは1,600倍する)を利用するか、または$\lambda$を直接入力します。デフォルトでは2乗値を利用しますので、元のHodrick and Prescottの$\lambda$は次のようになります。
    $\lambda$ 頻度
    100 年次データ
    1600 四半期データ
    14400 月次データ

    Ravan and Uhligは4の乗数を推奨しています。EViewsは整数値以外の値が入力されても、丸めて整数化します。
  3. ダイアログのBoostingセクションでは、HP フィルタの反復ブースティングの設定ができます。最大反復回数に基づいて停止するか、情報基準を使用するかを選択できます。
    Iterationsを選択すると、EViewsはMax. Iterations編集フィールドの入力値に基づいて停止します。デフォルトでは、フィルタの反復が1回だけ実行されるため、ブースティングは行われません。
  4. Information criteriaラジオボタンを選択すると、EViews は情報基準を使用して最適な反復回数を選択します。Max. Iterations編集フィールドを使用して、考慮する反復回数を指定する必要があります。
  5. OKボタンをクリックすると、EViewsはフィルタをかけた系列と、源系列を同じグラフにプロットします。ただし、フィルタ処理できるのは現在のワークファイルサンプル内のデータだけです。標本の範囲外のデータ部分はNAとなります。

例題

  1. たとえば、セントルイス連銀のデータベースから新規住宅着工数データをダウンロードしたとします。次をコマンド欄に貼り付け実行します。
    dbopen(type=fred, server=api.stlouisfed.org/fred)
    wfcreate m 1959M01 2024M02
    fetch(d=fred) houst
    smpl 2010 2024m02
  2. 次に、2010m01から2024m02までの値を使用して、HOUSTシリーズに対して5回の反復でHPフィルタリングを実行します。
    前述のようにProc/Hodrick-Prescott Filter...と操作し、ダイアログボックスを開き、Boostingセクションで最大反復回数を5とします。
    データ
  3. 新しく作成されたHPTREND系列には、原系列HOUSTの平滑化された値が含まれます。 現在のワークファイルサンプル内のデータのみがフィルタリングされることに注意してください。現在の標本外の平滑化系列のデータはNAとなります。
    データ

参考文献

  1. Hodrick, R. J. and E. C. Prescott (1997). “Postwar U.S. Business Cycles: An Empirical Investigation,” Journal of Money, Credit, and Banking, 29, 1–16.
  2. Phillips, Pter C. B. and Zhentao Shi (2020). "Boosting: Why You Can Use The HP Filter," International Economic Review, 62(2), 521-570.
  3. Ravn, Morten O. and Harald Uhlig (2002). “On Adjusting the Hodrick-Prescott Filter for the Frequency of Observations,” Review of Economics and Statistics, 84, 371-375.
page_top_icon