第2回「光石賞」学生論文コンテスト

「EViewsによる実証研究」 受賞論文と総評

2011年3月

 受賞論文

◇準光石賞: 江頭 厚志 様、早稲田大学大学院

公的資金注入銀行の裁量的会計行動について」(pdf)
■受賞コメント
 この度は準光石賞を賜りまして、誠にありがとうございます。
 会計情報の実証研究に興味を持ち、現在、社会人大学院で勉強をしております。今回応募した論文については、自分の問題意識ばかりが先行し、なかなか思うようにデータベースの作り込みやモデルの設計ができずに苦労しただけに、入賞のご連絡をいただいた時の喜びは大変大きなものでした。
 その一方で、改めて本論文を読み返してみると、連立方程式モデルはもっと適切な推定方法があったのではないか、時系列分析のアプローチも取れたのではないか、など新たな分析手法についても関心が出てきております。
 今回の受賞を契機に、今後もEViewsを最大限活用しながら様々なテーマで実証研究を続けていきたいと考えております。
 また、今回の受賞は、日頃ご指導頂いている須田先生、そして大学院での勉強に理解を頂いている職場と家族の協力があっての受賞ですので、この場をお借りして皆様に御礼申し上げます。どうもありがとうございました。


◇準光石賞: 辻 裕行 様、明治大学大学院

非定常時系列データのVARモデル推定について」(pdf)
■受賞コメント
 この度は準光石賞をいただき、大変うれしく光栄に思います。
 受賞の知らせには「まさか」という驚きと、「でも、やった甲斐があったな」という達成感の両方を感じました。今回のコンテストへの参加にあたっては、Eviewsの様々な機能やコマンドについての理解に最も時間を使いました。EViewsというソフトウェアの広さと深さを見た思いがします。
 自分にとっては高いハードルでしたが、何とか1つの形にまとめることができ、今後の自信に繋がりました。非常に良い機会をいただけたことを感謝しております。ありがとうございました。


◇プログラミング賞: 森川 泰 様、明治大学大学院

「確率的フォワードルッキングモデルのEViewsを使った解法プログラミング」


◇努力賞: 石川 大輔 様、福島大学大学院

地域金融と経済成長の相関性について」(pdf)


 審査委員長による総評

 残念ながら昨年度同様、光石賞の受賞作はなかったが、準光石賞の2論文は優れた論文であり、審査員の評価も高かった。しかし、いずれもあと一歩ないしは数歩の踏み込みが足りなかった。審査委員長の私見としては、論文を書き上げ、すぐに投稿したのではないかという印象をぬぐい去ることができない。他の研究者前で発表したり、同僚に読んでもらったりといった手順が抜けていると感じた。以下の総評で触れる点は、投稿作品を何らかの方法で“露出”しておけば避けることができたと強く感じる。

 「公的資金注入銀行の裁量的会計行動」は、会計学的計量分析であり、現実的かつ重要な問題にまじめに挑戦している。計量経済分析の観点からは、連立方程式モデルと称しているが、OLSで分析をしている点で課題がある。また、背景にある理論モデルの解説が不足しているのではないだろうか。公的資金注入銀行と非注入銀行の目的関数は同一なのであろうか。同一ならば注入銀行に対する規制はどのように制約条件として組み込まれているのだろうか。もし、2種類の銀行の目的関数が、異なるならば、最適化の結果としての行動方程式の特定化は異なるのではないだろうか。さらに規制主体の目的関数があるとすれば、どのような銀行行動を想定しているから、現実のモニタリングが正当化されると考えているのであろうか。と、多くの質問が浮かんでくる。

 「非定常時系列データのVARモデル推定について」は、先験的に与えられた特定の経済システムに関して、推計方法によって、統計的バイアスがどの程度の影響を持つかを考えた、優れた視点を持つ論文である。サンプルサイズに対応して、データを水準あるいは差分で利用した場合のバイアスを評価し、一定の目安を提供した、いわゆるセンスの良い論文である。この論文に対するコメントは、結果が先験的に与えられた経済システムを前提している点に集中した。実用性の高い論文であることを考えると、実際の経済データを利用した分析例を望みたい。新規にモデル推定をしなくても、既発表のモデルはふんだんに存在するからバイアスが現実のデータにどの程度の影響を持つか知りたいと考えるのは自然であろう。

 光石賞に該当する作品がなかったため、ライトストーン社と審査委員長の協議の結果、努力賞とプログラミング賞を特設した。

 「地域金融と経済成長の相関性について」は努力賞とした。この論文は経済成長の要因の金融要因に着目した論文である。先行研究等をよく読み、複数の仮説をデータで検証しようとした力作である。しかし、分析のフォーカスがはっきりしない。先行研究のサーベイと実証分析の連携がうまくなされているとは言えない。実証研究においては、「貸出と預金」「貸出金利と預金金利」が説明変数として同時に利用されている。推計式を行動方程式とみるか誘導型とみるかはっきりしないが、多重共線性が当然生じているであろう。さらに表題に「相関性」という言葉が使われている点も注意が必要である。計量分析において、相関という言葉は相関係数を計測することを意味し、因果関係を前提としないことも意味する。しかし、分析自体は回帰分析が利用されており、因果関係の議論となっている。

 「確率的フォワードルッキングモデルのEViewsを使った解法プログラミング」はプログラミング賞とした。第1回光石賞では、プログラミングに関する賞をもうけていたが投稿作品がなかったため、第2回からは募集をしていなかった。しかし、この投稿作品が該当すると考え、特設した。マクロモデルにおいて、フォワードルッキングモデルの重要性に疑問の余地はない。通常、確率的フォワードルッキングモデルは専用アプリケーションで分析することが多い。しかし、EViewsのプラットフォーム上で実現できれば複数のアプリケーションでデータ共有をしたり、出力のフォーマットを統一したりする手間を避けることができる。このプログラミングは、実際の利用に関しては試運転が必要であり、問題がある可能性の指摘がある。しかし、Eviewsの新しい発展にプログラム可能性という方向性があり、その先駆けとしての価値を高く評価した。

以上

審査委員長 大林 守、専修大学商学部教授

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