解決したい問題があるとき、やみくもに行動をおこしても周りの理解が得られず、うまくいかないことが多いものです。日本には、「急がば回れ」、「論より証拠」といったことわざがありますが、統計の知識を使えば冷静に正しい解決策を見つけだすことができるかもしれません。
ここでは、身近な例をみながら「統計はどんな時に使うか」をかんたんにご紹介します。
小学6年生のたかし君は、毎月のおこづかいとして1,000円もらっています。まわりの友達にはもっとたくさんもらっている子もいて、自分のおこづかいは少ないような気がしています。
おこづかいアップの相談をお母さんにしても、
1,000円で十分でしょ。私が小さいころなんて…
と昔話が繰り広げられるだけで、まともに取り合ってくれません。
そこで、たかし君は、クラスの全員に先月のおこづかい額についてのアンケートとって表にまとめました。さらに算数の授業で習った代表値を計算してヒストグラムを作ったところ、結果は次のようになりました。
この結果をみて、たかし君は、おこづかいをもらっていない人もいる一方で、自分の5倍の5,000円ももらっている人がいることに驚きました。
たかし君は、平均額が約1400円で中央値も1,500円ということから、おこづかいが1,000円というのはどちらかというと少ない方であると考え、お母さんに再度おこづかいアップのお願いをすると、
よくここまで調べたわね!その努力に免じて来月から500円アップ。
ただし、これまで必要な時にお母さんが買っていた文房具、これからは自分のおこづかいで買うこと。いいわね?
おこづかいが500円増えたよろこびも束の間、今度は、本当に自分で自由に使えるお金が増えたと言っていいのか、わからなくなってきました。「つぎは毎月の文房具代を調べよう…」。
たかし君の挑戦はまだまだ続きそうです。
「白衣の天使」として有名なフローレンス・ナイチンゲールですが、実は統計を使うことで多くの兵士を救うことに成功した人物でもあります。
彼女は、クリミア戦争の病院に派遣されたときの経験から、「入院した兵士が亡くなる大きな原因は、戦争による負傷でなく、劣悪な衛生環境にある」と考え、これを国の役人たちに説明するために、当時としては珍しいグラフを使いました。
このグラフは「鶏のとさかグラフ」あるいは「鶏頭図」と呼ばれており、2つのグラフは月ごとの兵士の死亡理由を表現しています。
このグラフを引用したナイチンゲールは、青色の部分は「病院の衛生管理を改善することで救える命だ」と説明しました。
このグラフによって、女王や役人たちは衛生環境の大切さに気付き、軍隊だけでなくイギリス全体の保健制度の改革・改善へとつながりました。
ナイチンゲールは統計を使い、言葉だけでなく「証拠」 となるデータといっしょに説明することで、多くの命が救われました。論より証拠とは、まさにこのことですね。
たかし君のおこづかいアップのための調査も、ナイチンゲールの鶏頭図も、「PPDACサイクル」に基づいています。PPDACサイクルは、統計で問題を解決するときの公式のようなものです。
P:問題を設定する(Problem)
P:計画を立てる(Plan)
D:データを集める(Data)
A:データを分析する(Analysis)
C:結論を出す(Conclusion)
統計を使って考えるときの世界共通のフレームワークで、PPDACサイクルを覚えておけば、統計をつかった問題解決の助けになります。
P(問題を設定する):自分のおこづかいはクラスの中で少ないのか
適切な問題を設定することで、なんのデータを集めれば良いのかがはっきりします。
P(計画を立てる):クラスの全員に先月のおこづかい額についてアンケート調査
見つけた問題について、どう調べるのか計画します。「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「なぜ」「どのように」を念頭に考えると抜けがなくなります。
D(データを集める):クラス全員にアンケートを配布し、回収したら表に整理
ただデータを集めるだけではわかりづらいので、表などに整理して全体像をつかみやすくします。
A(データを分析する):代表値を求めヒストグラムを作成
値が大きい順あるいは小さい順に並び変えることで、ある特定の値がどの位置にあるのかわかります。また、統計値を計算したりグラフを作成することでデータ全体の特徴や傾向がわかります。
C(結論を出す):自分のおこづかいはクラスの中でどちらかというと少ない
最初にどんな問題を設定したかを思い出し、その答えになるような結論を出すようにします。
結論を出したらそれで終わりでなく、分析したことを生かしたり、調査の方法を改善しながら、最初の「P:問題を設定する」に戻って同じ手順を繰り返します。
例えば、アンケートの回収がスムーズに進まず、回収期限を設定しておけばよかったと思ったのなら、次回以降はその反省を生かせばよりよい調査、分析になるはずです。