CLIMEX
CLIMEX の概要
CLIMEXはシミュレーションとモデリングの技術を使い、気候変動の影響が生物種の分布にどのように影響を与えるのか予測します。生物種の地理的分布に制約を与え、生物季節学を構築し、相対的な存在量をシミュレーションします。
CLIMEXは気候変動がどのように生物種の分布に影響を与えるかということだけでなく、農業地域への外来種(侵略種)の進行具合を分析できます。
CLIMEXは現時点での発生状況以外で、害虫などが他の地域で定着するリスクや、特定の種に関する知識がない状態でも生物的なコントロールの成否をモデルによって検証できます。
CLIMEXは興味のある地域で悪い疾病が生じるリスクを解析でき、生物種に関する知識を有していない生物学コントロールエージェントの潜在的な成功/失敗確率も調べることができます。ただし、現時点のどこでそれが発生するか、ということは分かりません。
CLIMEXは世界中の40か国近くで侵略的害虫の発生予測、モデル作成、コントロールを行うために使用されています。害虫による商品作物への被害は毎年10億ドル近くにのぼり、徐々に温暖になっていく世界で侵略的な害虫をコントロールするのは、さらに重要になってきます。
ソフトウェアCLIMEXは2種類の異なる気候マッチングツールを有しています。1つはCLIMEXモデル(“CLIMEX”または“CLIMEXモデル”と記されます)で、もう1つはCLIMEX“Match Climates”機能です。後者(CLIMEX“Match Climates”)は異なる場所の気象学的なデータを特定の種に依存しないで比較するツールになります。
CLIMEXシミュレーションモデルは、最初にSutherst and Maywald(1985)提案し、その後に続いた論文などの出版物には、数多くの追加的提案やモデルを利用するうえでの更なる考察や注意点等がまとめられています。これらの研究の一覧はユーザマニュアルの巻末にあります。その中でも特に重要なものはSutherst et al 1995, Sutherst 1998です。モデルは、ある特定の種が生息している場所が分かれば、その気候条件には耐性があるという仮定を元に作成しています。言い換えると、CLIMEXは目的の種の地理的分布に至るメカニズムを模倣し、それを元に生物季節学を特定し、相対存在量も合わせて計測します。
ユーザに対してCLIMEXは、気候的なデータとの関連から、ある種の潜在的な地理的分布と季節存在量を推測する方法を提示します。一般的な統計的フィットの手法を用いて、天候パターンや種の分布にマッチさせる訳ではありません。
CLIMEXは特定の種に当てはまるように、その種の温度、湿度、光に対する反応のパラメータセットの値を設定していきます。ターゲットには“population”という言葉が使用され、これは例えば動物や植物の種の個体群、あるいはバイオタイプを指示する際に使用します。年間成長指標(Annual Growth Index、GIA)はその生物にとって好ましい季節にどれだけその個体群が増える可能性があるかを示しています。4つの(気候的な)ストレス要因(寒さ、暑さ、湿潤、乾燥)とこれらの組み合わせは、その種にとって好ましくない季節にどれだけ個体群が減少するか説明します。成長(Growth)とストレス(Stress)インデックスは合わせて生態気候インデックス(Ecoclimatic Index, EI)と呼ばれ、目的の種にとってその場所や年が永久に住まうにはどれほどよいか、全体的な計測を行います。2つの限界条件、成長期間の長さと義務的な休眠(冬眠など)が当てはまる場合は、全体的な制限値してEIの値に影響します。結果は表、グラフ、地図で表示されます。
ある種の気候的条件はその種の地理的分布(本来の分布範囲か別の地域で長い間に生存が確立された分布範囲)、相対存在量、生物季節学から推測されます。いくつかのラボのデータ、例えば、成長温度の閾値はCLIMEXのパラメータをフィットまたは調整するのに使用できます。パラメータの初期推定値は既知の知見によるインデックス、生物季節学、そして可能ならば、それぞれの場所にいる相対存在量のインデックスも使用して調整されます。
パラメータ値が推定され独立データに有効である可能性がある場合、CLIMEXは他の、独立した場所に適用して予測をすることができます。独立データとは、実際に使用するデータとモデルをフィットしたデータの間には繋がりがない事を意味しています。つまり、ある特定の地理的分布のサブサンプルを取り、その残りのデータでモデルテストをすることはできません。
「気候/灌漑シナリオの違いによるシミュレーション結果の比較例」
CLIMEXは以下の機能を使用して、種の分布に対する気候の影響を示します。
- MS Windowsインターフェイス
ユーザは複数の地図、グラフ、表を複数同時に表示でき、また、オプションとして1つないし2つの種を実行するように設定できます。このパッケージは気象データや地図のカスタム化を行えるMetManagerとMapManagerモデルを使用しています。CLIMEXはグラフを描画でき、ドロップダウンメニューや簡単に使用できるダイアログボックスと詳細なオンラインヘルプシステムを兼ね備えています。 - 気候/灌漑シナリオ
CLIMEXはユーザに気候変動と灌漑の潜在的な関係が種の分布と存在に影響を与える可能性を示します。“Greenhouse”オプションは異なる気温や降雨状態の影響を確認でき、“Irrigation”オプションは週ごとにどれほどの水を追加するのか指定する事ができます。どちらのオプションでも、夏と冬では異なるシナリオを適用できます。
- 地図/グラフ/表
CLIMEXは地図をカスタム化したり、気象データを変更するツールを準備しています。MapManagerは地図の表示、選択、編集を行え、MerManagerは追加の気象学的なデータを再設定してCLIMEX形式に合わせ、データベースに加えてからデータのサブセットを作成できます。 - ユーザガイド&ヘルプシステムとチュートリアル
CLIMEXは広範囲にわたるユーザガイドが付属します。これには、CLIMEXを作るときに使用した理論、アルゴリズム、パラメータ設定の手順等が記載されています。CLIMEXにはオンラインヘルプ、50ページのチュートリアルが付属します。 - CLIMEX気象学データベース
CLIMEXは世界中の約2400の気象観測所で観測したデータと共に出荷されます。ソフトウェアは月次の長期平均最高・最低気温、降雨量、相対的湿度を必要とします。MetManagerはこれらの観測所のリストをサブセットとして指定でき、特定の場所に新しいデータを追加できます。また、グリッドベースのデータもスペース区切りのCLIMEXの形式であるなら、使う事ができます。
v4 新機能
- 大幅な高速化
モデルの実行がバージョン3と比較して約10倍速くなりました。 - 自動パラメータフィッティングの向上
モデルパラメータの半自動フィッティングがより簡略化され、偽不在(pseudo absences)の指定が必要なくなりました。フィッティングのアルゴリズムは単純にシェープファイル(Shapefile)形式で場所のポイントの設定が必要です。休眠パラメータはフィッティングのプロセスに含めることができます。 - "Compare Locations”モデルはストレスインデックスと成長インデックスの週間の出力マップを作成できます。
- 新しいモデルCLIMEX"Compare Locations/Years"が追加されました。これは調査される気候適合性で経年の変動を許可します。
- 気候適合性の周期的パターンまたは経年パターンの動画を作成できます。
"Compare Locations"と"Compare Locations/Years"からの時系列の出力を動画として見ることができます。週間または年間の概要変数を動画として見ることができ、気候における周期または経年の可変性の影響を評価することができます。 - 自動パラメータの感度分析とモデルの不確実性解析が可能です。
- 適合している種の位置記録のセットと合致している気候位置を含んでいる参照データセットでのポイントのセットを"Reference Data"と呼ばれる変数としてマップすることができます。
- 地域気候マッチング機能がより大きなデータセットを取り扱えるようになりました。100の参照ポイントがCliMond 10'の世界グリッドで実行できたことを確認しています。
- バッチパラメータの実行によって高頻度に繰り返すタスクを自動化することができます 。
これはユーザインタフェースへの拡張が必要です(画像1-1)。このシークエンスは複数の種のモデルを順番に実行したり、複数のパラメータオプションを同じ種に対して実行したりすることができます。このシステムはとても強力ですが、非常に複雑で、極めて大きなデータを生成することが可能です。
画像1-1 Model Componentsウィンドウでコントロールウィンドウに追加されたシークエンスのコンポーネントがハイライト表示になっている様子
v3 新機能
v2とv3の主な違いを次にまとめます。もちろん、ここに列挙した項目以外にもの、多くの改良を施しています。
- フィットの際、2つの種における交互作用(競合/相乗)を、パラメータを用いて設定できます。
- 成長インデックスに対する追加要素として放射線を追加できるようになりました。
- 身体基質インデックス(Physical Substrate Index)と生命基質インデックス(Biotic Substrate Index)の2つのユーザ定義の要素を成長インデックスに追加できます。これらのインデックスとして利用する変数は、すべての位置で単一の値をとるか、それぞれ異なる値をとるか、MetManagerで設定します。
- フィッティングルーチンに基づく遺伝アルゴリズムを介して、ストレスインデックスを決定するパラメータ値を自動的に求めます。
- 例えば、Match Climates関数におけるホーム(Home)設定を利用して「地域マッチング」を利用できます。
- MetManagerアプリケーションは5つのユーザ定義変数と同じく、5つのユーザ定義ロケーションをインポートできるよう拡張されました。
v1からの拡張機能1
CLIMEXはv1.1に比べると大きく機能拡張されています。v1.1のユーザの方がv2を利用した時に戸惑うことがないように、ソフトの動作が異なる機能についてはイタリック対で表記します。
- CLIMEXはDYMEXで開発されたアプリケーションです。v1.1の時に比べるとインタフェースと操作方法が大きく代わっていますので、操作方法は一から学び直すことになります。 しかし、DYMEXのフレキシブルな表現方法をそのまま利用できることになりました。特に、マップ機能は大幅に強化され、ズームやパンなども行えるようになりました。また、様々なサイトから入手した標準的なシェイプファイルを利用してマップを作成できるようになりました。新しいMapManagerではマップリージョンファイルをビジュアルに作成できるようになりました。また、マップ投影手法も豊富に用意されています。マップの印刷機能も拡張し、印刷プレビュー機能も用意しました。
- 表とチャートの作成に関してもフレキシブルな操作が可能になりました。編集作業が詳細に行え、その編集内容を保存し、それをファイルとして記録し、再実行させることができるようになりました。表の内容はマイクロソフトAccessの中に保存することも可能です。チャートとマップはラスタ形式(Windows bitmap,bmp,jpg)、またはベクトル形式(Windows 拡張メタファイルのemf)でエクスポートできます。
- 新しいMetManagerはMicrosoft Accessアプリケーションですので、旧バージョンで発生したようなインポートの問題は発生しません。気象データと位置に関する複数のデータベースを簡単に作成できます。.bmtファイルやAccessファイル同様、.loc/.met形式のデータファイルをインポートできます。標準的なデータベースでは行き届かない場合の0.5(度)ワールドグリッドの気象データも読み込むことができます。データを利用した分析においては必ずClimatic Research Unit (CRU), Norwich (http://www.cru.uea.ac.uk/cru/data/hrg.htm)からの出典であることを明記してください。研究目的に限れば、0.1(度)のデータもCRUの使用条件に従うことを承諾すれば、CRU Norwich (http://www.cru.uea.ac.uk/cru/data/hrg.htm) から入手可能です。
- 土壌水分と平均気温もMatch ClimatesのMatch Indexとして利用可能な変数になりました。
- 生物種ごとのパラメータをそれぞれ別ファル(.cxp)で保存できるようになりました。当該生物種に関するコメントもそのファイル中に保存できます。v1からv2用に生物種とコメントファイルの変換を行う、変換ユーティリティ(cxdxconvert.exe) を用意しました。
- Cold Stressはdegree-dayの算出に必要なパラメータをDVO以外の、新しい閾値パラメータ(DVCS)を用いて計算することができます。ただし、DVCSのデフォルト値はDVOと同じです。新機能はDVO以外の値をフレキシブルに利用できるところにあります。
- Cold Stressに第三の要素を追加しました。この要素は最低気温と同じように設定できますが、その代わりに平均気温を設定することが可能です。日中の気温範囲が異なる気候に対する反応を比べる場合に便利です。
- 他のストレスインデックス同様、ストレスは時刻とともに変化するので、Interaction Stressesで時間を利用できるようになりました。変換ユーティリティを利用してパラメータファイルを変換しても、CLIMEXは旧バージョンのInteraction Stress法をそのまま利用しますので、必要な処理手順が失われる心配はありません。もちろん、v2では新しいフィット手法を用いてフィットを実行されることをお勧めします。
- 同一地域において連続して分析を行う場合、Ecoclimatic Index (EI) の違いをマップ上にプロットします。したがって、Climate Change Scenarioやパラメータの違いによる分析結果の差異を簡単に確認できます。