第3回「光石賞」学生論文コンテスト

「EViewsによる実証研究」 受賞論文と講評

2012年3月

受賞論文

◇光石賞:早稲田大学 商学部(4年) 草野孝幸、玉置卓也 様
「スポーツ産業発展のカギ ―同時競争型スポーツにおける部分的戦力均衡と入場者数―」の講評と感想

◇努力賞: 成蹊大学 経済学部 経済経営学科(3年)
浮田由美、神中勇輝、角田昴哉、平本千晟、渡辺結美 様
「東日本大震災後の企業による情報公開が株価に与えた影響」の講評

光石賞

早稲田大学 商学部(4年) 草野孝幸、玉置卓也 様
スポーツ産業発展のカギ
         ―同時競争型スポーツにおける部分的戦力均衡と入場者数―」(pdf)

■講評
第3回論文コンテスト光石賞 全審査員一致でバランスの良い優れた論文であるという評価であった。審査委員長としても、初の光石賞に相応しい論文であると評価した。
 本論文はモータースポーツにおけるフォーミュラ1を同時競争型スポーツとして位置づけ、観客動員数の決定要因を計量分析したものである。この論文は、注意深い先行研究のサーベイに基づき、仮説を構築し、データを収集し、計量分析を行い、そして結果の解釈と「型」に従っている点が優れている。初学者の論文には、この「型」を軽視したものが多いことから、今後の光石賞に挑戦者たちにとって良い見本となる論文である。受賞のポイントとして、我が国においてスポーツの計量経済学的分析の蓄積は少ない中で、今回のテーマの選択にはセンスがあり、結果のインプリケーションも興味深かったことが重要であった。
 入場者数を決定する要因として、チーム全体、上位入賞者、そしてスタードライバーの獲得ポイントの標準偏差を、全体均衡、上位均衡、スター均衡という説明変数として定義し、いくつかのコントロール変数とともに回帰式におけるパフォーマンスを検証している。その結果、標準化回帰係数で評価して、スター均衡、上位均衡、全体均衡の順に大きい係数を持つという結果を入手している。つまり、スタードライバーの実力が伯仲すればするほど入場者数を増加させる効果があるという推計結果を得ている。
 より良い論文とするために4つコメントをしたい。第1に、決定要因として、全体均衡、上位均衡、スター均衡という説明変数を定義している。ここで言う均衡が、Rottenberg論文におけるBalance of playing strenghth among teamであるとするならば、調整が終わった均衡というより、戦力の伯仲度合いや拮抗程度を示している。したがって、入場数の市場を需給連立させて入場料で調整するような市場均衡モデルとして再定式化する際には混乱する可能性があろう。第2に、全体均衡、上位均衡、スター均衡変数の内容の一部は重複しているため、同時に説明変数に入れることは説明変数の独立性に問題が生じる。このため、重複がなるべくないように工夫する必要であろう。第3に、説明変数にサーキット収容人員が入るのは適切であろうか。推計結果では、サーキット収容人員によって大きな部分が説明されており、他の説明変数は統計的に有意であるが貢献が少ない結果となっている。被説明変数を入場率、つまり入場者数をサーキット収容人員で除したものにするなどの工夫が必要ではないだろうか。最後に経営問題として、フォーミュラ1の収益構造の疑問がある。入場料(入場者数)は、収益のどのぐらいの割合なのであろうか。世界的イベントであることから、放映権などからの収益も大きい可能性が高く、視聴者数と比較すると入場者数は非常に小さい可能性があるため収益源としてどの程度重要なのかを提示する必要があろう。


◆感想 玉置卓也 様
 光石賞という素晴らしい賞をいただき、とてもうれしく思っております。
私たちの研究が外部の方々の目にどう写るか確かめたい、その目にかなうように挑戦したい。というのが貴コンテストに参加しようと思ったきっかけです。募集されている研究テーマに幅があるので、私たちのフィールドワークをからめた研究方法をいかすことができると思った点も大きかったです。
 外部に出しても恥ずかしくないよう、学部で一番の論文を書こうと決意をし、成果が出せそうなF1というテーマを選んで、毎日研究に取り組みました。終始ぶれずに頑張れたことで最後にこの様な最高のゴールを決めることができたのだと思います。 今後も研究活動で得られた経験や知識を活かしてゆきたいと思います。

◆感想 草野孝幸 様
 戦力均衡がスポーツ産業に求められている今、「プレイヤーのごく一部だけが戦力均衡していることが価値であるスポーツもあるのではないか」という素朴な疑問からこの研究はスタートしました。
 統計分析が研究の大半を占めますが、実際にF1をはじめとしたスポーツの試合にも積極的に出向くなど頭と体両方を使って研究を進めていきました。
結果、日本ではまだなじみの薄いスポーツマネジメントの分野に一つの新たな答えを導くことができ、本当に嬉しく思います。スポーツ産業の発展に少しでも貢献できた ら幸いです。

努力賞

成蹊大学 経済学部 経済経営学科(3年)
浮田由美、神中勇輝、角田昴哉、平本千晟、渡辺結美 様
東日本大震災後の企業による情報公開が株価に与えた影響」(pdf)

■講評
第3回論文コンテスト努力賞 重要なトピックをタイムリーに分析した点が評価された。内容は震災後の情報公開が株価に与えた影響を計測しようとした分析である。残念ながら、先行研究の紹介そして参考文献がない点そして論文記述法にも問題点が指摘された。分析自体も第1次接近としては有効であるが、論文とするにはさらにも踏み込んだ理論的かつ実証的研究が必要である。研ぎ澄まされた問題探索の嗅覚を持っているのであるから、研究を推進する力、そして結果を正しく伝える力の発揮を期待する。


講評:審査委員長 専修大学商学部 大林守 教授

結果発表ページ   受賞論文と講評ページ

page_top_icon