第8回学生論文コンテスト「光石賞」 -ソフトウェアによる実証研究-

 

第8回学生論文コンテスト「光石賞」 審査結果

Contest 2016

第8回学生論文コンテスト「光石賞」にご応募・ご提出いただきました皆様に、改めて御礼申し上げます。
厳正なる審査の結果、第8回「光石賞」学生論文コンテストの入賞者は次のように決まりましたのでご報告いたします。

専修大学 商学部 大林 守 教授の講評を公開しました。(2017/4)

受賞論文

光石賞

早稲田大学教育学部
乗松拓理 様、吉岡宏真 様、小野恵里佳 様

「専門学校の進学要因と就業状況に関する実証分析」(PDF, 704KB)

第8回光石賞_光石賞受賞
写真左から黒田祥子先生、小野恵里佳 様、乗松拓理 様、吉岡宏真 様

受賞の感想

この度はライトストーン社様から光石賞を頂きましたこと深く感謝申し上げます。専門学校の研究にあたりたくさんの試行錯誤を重ねて仕上げた本論文が、光石賞という栄えある賞を頂きましたことをとても嬉しく存じます。受賞にあたりまして、データ提供して頂いた東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センターSSJデータアーカイブ様、論文作成に研鑽し激励し合ったゼミの友人達、そして多様な分析アプローチをご教授頂いた黒田祥子先生に、この場を借りて改めて感謝申し上げます。3人での共同研究には大変な苦労がありましたが、こうした知的探究を学生の間に経験できたことが、なによりの財産になったと確信しております。光石賞を受賞した経験が今後の研究に活きるよう、さらに精進して参ります。
早稲田大学 乗松拓理

 

準光石賞

University of Michigan
廣野允威 様

「Three Years is Too Soon to Leave a Job」(PDF, 586KB)

第8回光石賞_準光石賞受賞
廣野允威 様(左)、Stephen L. DesJardins 様(右)

受賞の感想

It is my great pleasure that I am awarded with 2nd prize in this honourable student paper competition. Credit for this accomplishment mostly goes to my research advisor, Stephen L. DesJardins. His dedicated support and informative suggestion made this achievement happen. I am also profoundly grateful to Xiaoyang Ye, a doctoral student in higher education, for providing critical assistance in creating the structure of this paper. In addition, this research project would not have been possible without permission from the Institute of Social Science at the University of Tokyo to have access to a nationally representative longitudinal dataset, called the Japanese Life Course Panel Surveys for the Youth (JLPS-Y).

Inspired by an empirical study about student dropout pattern at college, this study uses a variant of event history model and investigates factors that determine job mobility of Japanese new graduates at an early career stage. The development of the more flexible econometric model in this study will contribute in revealing a new aspect of job mobility pattern in the Japanese labor market. Although some of the parts in this paper need revisiting for a complete scholarly paper, including the linkage between the theoretical framework and variable selection, further examination of econometric model assumptions to name a few, I believe that not a few interesting implications can still be drawn upon. There is no reason to stop at this single publication for my intellectual journey. Even after graduating from college, I will keep putting out intense efforts to publish papers, and seize a better prize than this one sometime in the future.

 

講評

専修大学 商学部 大林 守 教授

 例年のように光石賞と準光石賞の点差は小差であった。
 光石賞の論文は読みやすく結果の解釈も自然であり優秀である。5年間にわたる個票データを分析した力量は高く評価できる。
 コメントとして、ある意味でそつのない分析であると言わざるをえない。なぜならば、細部においてスキが目立つからである。問題発見能力そして分析力が高い論文であるが、先行論文のサーベイおよびモデルの特定化の解説は必要最小限と考えたのかもしれないが過小、propensity-score-weightingの採用理由とそのメリットとデメリットの説明は不十分、変数リストが不完全、実証結果には勤続年数が長いほど時給が下がるあるいは専門学校卒の方が高い給与といった結果が読み取れて不自然、興味深い実証結果(中高生およびその保護者へのキャリア教育の重要性)の政策含意への展開がない点が指摘できる。
 さらにいわゆるダブルスクールに関する議論がないことが気になる。ダブルスクールとは、資格試験対策や特定職業の専門技能修得のために大学と専門学校を掛け持ちすることであり、本書で想定されているある個人が大学か専門学校かという選択ではなく両者をという選択となるからである。さらに私立大学の中にはダブルスクールを課外教育として内生化、場合によっては単位化しているところさえあることから無視することはできないであろう。

 準光石賞は、視点の良さと計量分析の遂行能力がきわめて高い論文である。大卒の離職率の高さが重要な労働問題となっている点に焦点をあてた傑作である。 理論モデルから特定化を行い、推計手法選択、推計・検証というステップに関しては非常にレベルの高い分析となっている。
 副題の3年で止めるのは早すぎるは、論証したいものであったのが検証の対象であったのであろうか。もし早すぎるというアプリオリな結論予想にしばられてしまったとすると残念である。というのも、新規学卒就職者の在職期間別離職率の推移(厚生労働省資料)によれば、「3年で3割」は長期的現象であり、大卒離職率は1987年よりほぼ20パーセント台後半であり、1995年に30パーセント越えしてからは、2009年の28.8パーセントを唯一の例外として、30パーセント台を継続している事実がある。したがって、「3年で3割」は常態であり、最近の現象として考えるのは適切でない。そして、離職率の内訳も1年目から次第に減少していく傾向を見ることができることから、1年目の離職はミスマッチ要因が強く、次第により良い条件を求めるジョブホッピングの要素が増加している可能性を指摘できる。本論文で使用している東大社研若年パネル調査(JLPS-Y)の個票データでは無理と言えばそれまでだが、厚生労働省『雇用動向調査』等の検討も必要であろう。
 企業特定的人的資本(Firm specific human capital)を考えると早い離職は不利だが、雇用の流動性の観点から、意味ある離職は重要である。特に昨今の技術革新を考えると将来なくなると言われている職種は多種多様であり、離職・転職・職業訓練のサイクルがスムーズに回ることは重要であろう。企業経営に関しても、日本型経営の存続が日本経済の成長を支えるかという問題がある。現日本企業が行っているOJT等による「ウチの会社で使える人間≒他の企業では使い物にならない人間」の増加が望ましいかどうか考える必要があり、本論文の結論がいわゆる終身雇用制への回帰を意味するとすれば政策的含意をしっかりと見据える必要がある。
 受賞論文は共に優れた分析であり受賞者の皆様および指導者の方々に賞賛を惜しむものではない。さらに加えるならば、研究論文プロトコルに準拠することと、若者らしい大胆な仮説への挑戦ということは両立するはずである。今回の受賞論文にはある種の行儀良さがあった感が残り、詳細かつ綿密に査読された審査員の方から「野心的であれ」というコメントをしたいという要望があったことをお知らせして最後の言葉としたい。

 

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